1. NPO法人ArfiMedico(アフリメディコ) 代表理事 町井 恵理氏

東京都創業NETインタビュー

NPO法人ArfiMedico(アフリメディコ) 代表理事 町井 恵理氏

NPO法人ArfiMedico(アフリメディコ) 代表理事
町井 恵理氏
大学の薬学部を卒業。薬剤師として製薬会社に6年勤務したのち、青年海外協力隊としてアフリカのニジェール共和国に赴き、2年間、感染症対策のボランティア活動を行った。医療資源の不足から亡くなっていく人たちを目の当たりにしたことをきっかけに、アフリカの医療の問題をビジネスで解決できないかを模索。グロービス経営大学院へ進学し、「置き薬」のビジネスモデルを構築。それがAfriMedico立ち上げのきっかけとなる。2014年にTokyo Startup Gateway 最優秀賞受賞、2016年に『Forbes Japan』世界で闘う日本の女性55に選ばれた。
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アフリカのすべての人々に健康と笑顔を届けたい

日本発祥の伝統的な医療モデルの1つである「置き薬」をアフリカに広めることで、アフリカのすべての人々に健康と笑顔を届けたいという想いから、2014年4月にAfriMedicoを結成。置き薬を普及させる活動と同時に、現地で死因となったり罹患率の多い疾患や、住民の薬や病気への知識、医療施設へのアクセスなどの医療環境を調査している。

海外ボランティアへの興味から、青年海外協力隊へ

母が薬剤師だったことから薬に興味を持ち、大学は薬学部に進学しました。大学時代に、インドのマザーテレサの家でボランティアをして、「自分でも世の中に貢献できることがある」と実感。ボランティアの面白さに目覚め、アルバイトをしては海外ボランティアに出かけていました。

卒業後は青年海外協力隊に入りたいと考えていましたが、まずは社会人経験が必要だと思い製薬会社に就職。ところが仕事が思いのほか面白く、あっという間に6年が過ぎました。その間、「社長賞を獲る」という目標を達成し、次の目標を模索していました。年齢的にも30歳目前。以前から温めていた青年海外協力隊の夢を叶えるなら今だと思いました。

親には大反対され、2~3か月かかってようやく説得。会社を辞めてアフリカに旅立ちました。今思えば私は、両親の反対によって試されていたのだと思います。あれを乗り越えられなければ、その後アフリカで直面する様々な問題も乗り越えられなかったでしょう。

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医療が整わず、命を落とす人たちを助けたいと思い立つ

アフリカのニジェール共和国で、2年間、マラリア対策のボランティア活動を行いました。アフリカでは医療資源が不足しているだけでなく、道路などのインフラが整っていないために、病気になっても病院に行くこともままならない。そのため治療を受けられず重症化し、最悪の場合は亡くなってしまうこともあります。この状況を改善していくことが私たちのミッションでした。

具体的に行ったのはマラリア感染予防の啓発活動です。まず現地の方々にアンケートをしたのですが、たとえば「マラリアの原因は何か」という問に対し、「神がもたらす」などと回答する人も多く、「蚊」と正解できた人はわずか2割でした。私が滞在した2年間、紙芝居やラジオなどを使って啓発活動を行った結果、正解できる人は8割にまで増えました。しかし、では蚊に刺されないために何か行動をしているかというと何もできていない。蚊帳を使えば蚊を防げると知ってはいてもそれを買うことまではしていなかったのです。

知識を伝えても行動が変わらなければ、状況は変わりません。国の経済的な問題もあり、医療の改善も難しい。私のやってきたことは無駄だったのでは?と、無力感に襲われました。

アフリカの人たちが健康で幸せに暮らすためにできることは何か。寄付による支援ではなく、持続可能な仕組みは作れないか。それを学びたくて、帰国後グロービス経営大学院へ進学しました。そこで考えたのが、日本に320年前からある「置き薬」のビジネスモデルです。家庭や職場に薬箱を置いて、使用した分の薬の料金を回収する。この仕組みをアフリカに持ち込もうと考えました。

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代表を含め、全員が本業を持つ無償ボランティア

私は本来、起業家タイプではなく、リーダーというよりはフォロワータイプ。ですから起業する気は全くありませんでした。しかし、せっかくビジネスモデルを考えたのに、考えただけで終わってはいけないと思いました。そこで、大学院で知り合った人を中心に20人くらいのメンバーを集め、AfriMedicoを設立。タンザニアの知人を通じて紹介された現地の薬剤師ネットワークにも協力を得て、活動をスタートしました。

現在、タンザニアの村の約300世帯に置き薬を置いています。薬は鎮痛剤や胃腸薬、マラリア対策として虫よけスプレーなど10種類。「薬があることで安心」と、村の人たちには好評です。

薬の選定や、対象家庭の訪問は、タンザニアのスタッフが行っています。日本では、寄付金集めやPR活動、そのほか、事業の成果を裏付ける調査も行っています。

事業費としては、寄付金とビジネスコンテストの賞金が主な収入源で、資金集めには常に苦労しています。現在、日本のメンバーは私を含め、みな無償ボランティアです。すべてのメンバーは本業を持っており、その傍ら自分の得意を生かして協力してくれています。オフィスはシェアオフィスを利用し、極力固定費をかけないことで、なんとか運営しています。

お金がないからできない、ではなく、お金がなくてもここまでできるんだと面白がっている自分がいますね。

ひとりで抱え込まないことが継続につながる

辛いことはすぐ忘れてしまうのであまり覚えていませんね。ただ、2016年の頃、血尿が止まらず、起き上がれないことがありました。全部自分でやらなければと思っていて、寝る時間もないくらい働いていたので、知らず知らずのうちに疲れがたまって体が悲鳴を上げたのでしょう。その時みんなが助けてくれてありがたかったですね。

それ以来、全部自分ひとりで抱え込まないこと、何よりも自分が健康で笑顔であることを大切にしています。それがあってこそ、周りに健康を届けられるのですから。

本業を持ちながらの事業は簡単ではありませんが、不可能ではありません。大学院時代の先生から、「まだ会社を辞めていないの? 辞めないと本気だと思ってもらえないよ」と言われ、辞めたほうがいいのかなと迷ったこともあります。しかし、「そういう働き方のほうが今の時代らしいのでは?」と言ってくれる人もいて、思いとどまりました。人生100年時代ですし、副業も認められる世の中なので、このままで続けようと思います。

今、3歳の子どもがいるのですが、家族で過ごす時間がほとんどないため、会議にはいつも子ども連れ。今年はアフリカの視察にも連れて行こうと思っています。

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置き薬で一人でも多くの人を健康にしたい

アフリカには54もの国があります。今後はタンザニアだけでなく、他の国にも置き薬を広げ、一人でも多くの人の健康に寄与したいと思っています。また、過疎地だけでなく、都市部にも広げることで、収益を上げていきたい。そのためにも、調査・研究を行って、置き薬の効果のエビデンスを出していかなければなりません。

起業なんて難しいと思っている人も、起業を考えるだけで、すでに素質があるのだと思います。何かやってみたいと思うことがあるのなら、ぜひ、一歩でも行動を起こしてみてほしい。一歩ステージを上げれば、今までに見えなかった世界が見え、出会わなかった人にも出会え、無理だと思っていたことに手が届きそうな気がしてくるものです。

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