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【電子版】デジタル編集部から(61)ドイツに学ぶ産業のデジタル化(上)オープンイノベーションとエコシステム

日刊工業新聞電子版
(2017/9/27 12:30)

  • ドイツ
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  • 産業のデジタル化
PwCの鈴木氏イメージデジタル工場関連でドイツ企業が5年後に導入を見込む技術要素についての調査結果を説明するPwCの鈴木氏

デジタル産業というと、きら星のようなIT企業のひしめく米国が世界の覇権を握っているように見えますが、こと産業分野のデジタル化で、いぶし銀のように重厚な存在感を放っているのがドイツ。よく知られた「インダストリー4.0」をはじめ、金属3Dプリンターの普及、先進的な自動運転車の研究開発など、政府や自治体、産学が連携しながら着実にイノベーション創出を進めています。

ドイツはモノづくりに強みを持ち、職人気質という点で日本と共通すると言われています。ただ、合理的で目的意識が強く、日本人とは考え方がまったく違うとの指摘も多い。そこで、産業のデジタル化を進める上での勘どころとは何なのか、ドイツの事例から学んでみましょう。

日本企業に足りない「強い目的意識」

「デジタル化を推進するのに、ドイツでは人材やコストと言った具体的な課題を挙げるところが多い。それに対し、日本ではビジョンや文化、経営層のリーダーシップの欠如、投資目的といった概念的な課題が中心になっている」

9月13日に都内で開かれた「日独ビジネスセミナー」(NRW. INVEST社/デュッセルドルフ市主催)。PwCコンサルティングのパートナーで6月末までデュッセルドルフに駐在していた鈴木雅勝氏は、PwCのアンケートをもとにデジタル化を巡る日独の違いをこう説明しました。

つまり、ドイツ企業の場合はデジタル化について具体的なプロジェクトに乗り出した上での課題を指摘しているのに対し、日本の場合はそれより前の段階で悩んでいる様子。「頭でっかちでなかなか始められない、合意形成ができない、スピードが遅い、経営トップに理解してもらえないという状況にある」(鈴木氏)といいます。

重要なトップ人材

そもそも日本では、デジタル化が経営の重要課題に位置付けられていないケースが多く、そうした戦略をまとめ推進するのに適したトップ人材も不足している。ドイツではそうした場合、外部から専門知識を持ったCDO(最高デジタル責任者)を雇い入れているという。とはいえ、パナソニックが4月1日付で新設したビジネスイノベーション本部の副本部長に、SAPジャパンでバイスプレジデントチーフイノベーションオフィサーを務めた馬場渉氏を迎え入れるような例が出てきているのは、変化の表れと言えるでしょう。

また、2017年初めにPwCドイツが実施したドイツ企業経営トップ200人を対象にした調査によると、5年以内に導入を考えている産業デジタル技術では「予知メンテナンス」が最多。続いて「ビッグデータ活用のプロセス・品質最適化」「プロセス可視化/自動化」「つながる工場」「統合プラニング」…の順に多く、企業ごとのデジタル化のロードマップ(計画表)で要素技術が明確に絞り込まれている印象だという。鈴木氏は「日本企業は戦略的にやろうとすると、全部やろうとしがち。何かを捨てることも大事だ」と話し、このあたりでも自社のデジタル化戦略を見極める専門のトップ人材が必要になってくるのかもしれません。

新聞・出版大手も事業変革に成功

製造業ではないものの、デジタル化で外部との連携がうまくいった代表事例として、WHUビジネススクールのホルガ―・エルンスト教授は、ドイツ最大の新聞・出版企業アクセル・シュプリンガー(本社ハンブルク)を挙げました。同社は15年前にはデジタル化に乗り遅れ、ほかのメディアから同社のネット戦略について厳しい報道がなされていたのに対し、今では成功モデルとなっています。

同社がとった戦略は完全なオープンイノベーション。印刷媒体をデジタルに置き換えるだけでなくプラットフォーム化し、多数のスタートアップがその場をビジネスに利用できるようにすることで、広告などの手数料収入が入る仕掛けを作りました。「ほとんどの産業でデジタル化は破壊的な力を持つが、デジタル化は脅威ではなくチャンスでもある。そこでカギとなるのはオープンイノベーションやエコシステム(生態系のような企業間の連携関係全体)だ」。エルンスト教授はこう強調しました。

同じように、デジタル化に照準を絞ったらそこに突き進むドイツ企業の「目的意識の強さ」やエコシステムの厚みに注目するのが、ゼロワンブースター(東京都港区)の合田ジョージ共同代表。同社はスタートアップなどの事業を短期的に成長・加速させる支援を行うアクセラレーターといわれる企業で、2018年にも日本の中小企業やスタートアップ、大企業の人材をドイツに向けて研修に送り出そうと計画しています。

大企業のスピンオフと第三者組織の介在

合田氏によれば、ドイツで企業間のB2Bの事業をデジタル化するベンチャーが増えているのは、従来型企業が社内の一部の業務について、親会社が株を持ったまま外に切り出すスピンオフの増加が背景にあるとのこと。いわば「のれん分け」で、切り出した事業の意思決定を速くして、本体と協力しながら新分野のデジタル事業を拡大する例が多いという。

さらにオープンイノベーションで協力していく際に、各参加者の間を取り持つ第三者組織の存在も大きい。たとえば、日本企業が最も多く進出するデュッセルドルフに設立された「デジタル・イノベーション・ハブ・デュッセルドルフ・ラインラント」(デジハブ)。ここでは大企業やスタートアップ、家族経営の中小・中堅企業を集めてディスカッションやワークショップ、ハッカソンなどのイベントを頻繁に開催し、パートナーづくりを目指す企業同士の事業の方向性や意識のズレを数カ月にわたってフォローアップしながら、きめ細かく支援していく仕組みができているといいます。

「ドイツの仕組みはシリコンバレー型とは全く異なる。こうした『みんなで作っていこう』というコミュニティーベースのエコシステムに日本企業に参加してもらうことで、共創関係が生まれる土壌を日本でも作っていければ」と、合田氏はデジハブなどとの連携に期待しています。

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