1. スタートアップは製品・サービスより、まず社会や顧客の課題に向き合え「ディスラプティング・ジャパン」運営のティム・ロメロ氏に聞く

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スタートアップは製品・サービスより、まず社会や顧客の課題に向き合え「ディスラプティング・ジャパン」運営のティム・ロメロ氏に聞く

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(2018/3/16)

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Tim Romeroさんイメージdisrupting JAPANを運営するTim Romeroさん

「ポッドキャスト」を使い、日本のスタートアップ事情を英語で世界に配信している人物がいる。米国出身で東京在住25年目のティム・ロメロさんだ。「ディスラプティング・ジャパン(disrupting JAPAN)」と名付けた彼のサイトでは、日本のスタートアップのインタビューなどを聞きに来る海外のリスナーが6割方を占めるという。ロメロさんによれば、日本で成功している起業家の特徴は、これまでの企業にはないアグレッシブさ(積極性)。その上で、技術や製品開発にまず着目するのではなく、社会や顧客が本当に困っている課題の解決を目指すアプローチこそイノベーションにつながると強調する。

ポッドキャストを3年前に始めたきっかけは。

2014年9月に開設した。実はそれまで、ある出版社と日本のスタートアップの本を出す交渉をしていた。結局、本の話はなくなったが、その過程でポッドキャストでの情報発信を思い付く。当初はせいぜい50人ぐらいと思っていたら、今では世界中から3000人もの人が聞きに来ている。しかも約60%が日本国外のリスナーだ。

日本のスタートアップ情報が注目されるのはなぜでしょう。

ここ数年、日本のイノベーションに対する海外からの関心が非常に高まっている。現在の日本のスタートアップは、10年前、15年前に比べて信じられないくらいレベルが上がった。それに対して、情報を英語で直接聞けるチャンスがない。

日本の政府や自治体はずっとベンチャーやスタートアップの育成に努めてきました。最近になって有望なスタートアップが次々に登場しているのは、どういう変化があったと見ていますか。

多くのことが一斉に変わったのだと思う。政府が進めてきたほとんどの育成プログラムは支援にあまりつながっていないのが実態だ。政府、とくに安倍政権が一番やるべきことは、スタートアップは日本の将来にとって大事な存在であり、もっと注目する必要があると公言すること。そうすれば、大企業はもっとスタートアップと協業しなければ、と思うようになる。

参考になるのがDARPA(米国防高等研究計画局)のやり方。DARPAの技術開発プログラムでは自動運転車での制御技術やセキュリティーなど特定のニッチな技術課題を提示し、学生であろうと大企業であろうと誰でもこのコンペに参加できるようにしている。スタートアップが勝つことが多いが、これは政府がスタートアップから直接調達する非常にうまい手法だ。

今の若い起業家と話すとみなアグレッシブ(積極的)で、既存の大企業と直接競合することをいとわない。彼らは単にわずかな市場を切り開くことでは満足せず、ビジネス全部を取ろうとする。これには非常に勇気づけられた。今までの日本企業とは違うアグレッシブさを持っている。こうしたことはとても重要で、海外で成功する上で大事になると思う。

日本のスタートアップにとって有望なのは、どういう産業分野だと見ていますか。

とくに日本では、高齢者介護の分野で多くのイノベーションが生まれると見ている。というのも、10年以内に欧州も日本と同じような人口構成になり、15年後には米国も高齢化社会に直面する。つまり日本はほかの国に先行する今後10年の間にいろいろな手法を試して、専門知識やノウハウを蓄え、欧米に輸出できるようになる。

ほかに面白いのはIoT(モノのインターネット)だ。IoT分野での日本の課題はソフトウエアで後れを取っていること。だが、ハードウエアとなると話は別。日本は高い技能を持つハードウエアエンジニアがたくさんいる。ハードウエアがらみのIoTでも、日本のスタートアップが優位に立てると思う。

ロボットも日本のスタートアップが活躍できる分野だと思いますが。

消費者向けで日本は強みを発揮できると思うが、これまで強かった産業用の分野では、実は後れを取り始めているのではないか。(ソフトバンクグループが買収した)米ボストン・ダイナミクスが開発したロボットの滑らかな動きを見ればそれは明らかで、理由はソフトウエアにある。ロボットのハードウエアだけを見れば日本のものが世界一だが、ソフトウエアやAIでは、米国や中国が先を行く。日本はそれに追いついていく必要がある。

これまでの経験から、日本のスタートアップにもっとも必要なものは何だと考えますか。

世界中のどのスタートアップでも一番大切なのは、顧客の抱える真の問題を解決することだ。日本のある顧客が抱える真の問題を解決すれば、同じような悩みを持つほかの誰かにもその手法がおそらく役立つし、世界にも通用する。だが、スタートアップのほとんどは、まず自分たちが手がける製品やサービスのことを考えがち。そうではなく、最初に解決すべき課題は何かに焦点を絞るべきだ。

2018年3月16日付日刊工業新聞電子版
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