1. かっこ株式会社 岩井 裕之 氏

東京都創業NETインタビュー

かっこ株式会社 社長 岩井 裕之 氏

かっこ株式会社 代表取締役
岩井 裕之 氏
1971年生まれ。大学卒業後、CD・DVDを取り扱う商社にて、営業、システム企画を経て、企画部門のマネジメントに携わる。オンライン決済関連会社にて、オペレーション及び取引の審査部門のマネジメントに携わる。その後、以前から考えていた起業を決意し、現在に至る。

ビッグデータを活用した低価格の不正検知サービスを提供

「いつか起業する」という夢を抱きながら、そのタイミングを図りかねていた、かっこ株式会社の岩井裕之社長。友人の一言がきっかけとなり、社会人になって16年目、2011年1月に創業した。東日本大震災により経済活動が冷え込む大変な時期を乗り越え、ECマーケットへの不正検知サービスを1万サイトへ提供。ECの取引規模が拡大するにつれて、サービスの利用も増えている。創業8年目、岩井社長に今後の展望について聞いた。

友人の発言きっかけに仲間と起業

友人の発言きっかけに仲間と起業

大学卒業後は「起業」もひとつの選択肢として考えていましたが、いきなり起業するにはあまりにも世間を知らず、社会の常識やビジネスの動きを勉強するために、一度会社員になりました。

CD・DVDの商社、オンライン決済会社に勤めるなかで、営業、企画、システム開発などあらゆることを学びました。社内だけにとどまらず、会計士の勉強やビジネススクールに通う時期もありました。2010年4月、そのビジネススクールの同窓会で、友人の経営者に転職を相談したときのこと。その方の「岩井さんは、次は起業すると思っていた」という何気ない一言で、かつて起業を考えていたことを思い出しました。思わず、「一週間待ってください。一週間後に答えを出します」と伝えていました。出した答えは「起業する」。

事業内容などは何も決まっていませんでしたが、自分達が行動することで誰かが幸せになるような事業をできればと思い前職の仲間3人に声をかけ、一緒に創業を目指しました。

ビジネスの大枠については、前職のオンライン決済会社で将来性を感じていた「インターネット」を軸に考えました。単なる開発会社ではなく、サービスを通じて世の中を変えられるような社会貢献をしたいという想いから、それぞれが将来性を感じられる会社のビジネスモデルを持ち寄り、楽天やエムスリーといった会社のビジネスモデルはどのように稼ぎ、どこに未来はあるのか、というようなことを思案しました。

資本金を240万円準備しました。起業前に考えていたビジネスモデルは、事務所を構えて約一週間後で売上をあげることが難しいと判断し諦めました。また、起業間もない頃は、不正対策のコンサルティングの仕事を再委託という形でいただいていましたが、四人分の給料をまかなうには足りず、資金繰りが厳しい状態でした。

訪日外国人向けに、日本独自の料理を英語で説明した居酒屋紹介サイトを開設したこともありました。美味しそうな居酒屋に行き、サイトに載せたいと感じたお店では掲載を交渉しました。結果的に、東日本大震災の影響でこのサイトも途中で閉鎖してしまい、最終的に、今の不正対策事業が残りました。

ECサイトの不正対策にビジネスチャンスを見出す

岩井 裕之インタビュー02

最初にいただいた仕事の後に不正対策の様々なコンサルティング業務を請け負う中で、どれも類似の対策であることに気づきました。前職の決済会社での経験もあり、不正対策のノウハウはある程度培っていましたので、これを仕組み化すれば、お客様はお金も時間も大幅に短縮できるのではないかと考えました。

実際、知人のEC事業者等を通じてマーケットリサーチをした結果は好感触で、不正対策を仕組み化するビジネスは「いける」と確信を持ちました。ファーストユーザーになったお客様は、当初審査の仕組みを自前で作られようとされていましたが、コストがかさんでいたため、「私達がこの仕組みをつくったら利用していただけますか?」とご提案させていただき、創業した2011年11月に契約していただきました。

ビッグデータを活用し低価格で不正検知

岩井 裕之インタビュー04

「不正対策」は海外の金融業界から始まった高価格なサービスです。私たちはECサイトを運営する企業を顧客に考えていたため、企業規模にかかわらず導入しやすいよう、価格を抑えました。一方で、当社より歴史が長く、ネガティブリストがたまっている海外の製品に機能で負けないためには、どうしたら差別化できるか熟考しました。そこで、私たちはビッグデータを活用し、不正を働こうとする者の「ふるまい」に着目することで、検知する仕組みをつくりました。ネガティブリストだけに頼った検知ではないことから、新しい不正も他社より早く見つけることができ、価格面でも競争優位に立てています。また、サービスの利用が広がるにつれてノウハウが蓄積されるとともに、ネガティブリストの蓄積量においてもアドバンテージとなってきています。

国内のクレジットカード不正使用被害額を見ますと、2012年頃まで減少傾向にありました。しかし、2013年頃から再び被害額は増加傾向にあり、営業活動を行っている中でも、不正対策に課題を抱えるお客様が徐々に多くなってきていると感じています。最近は、そういったお客様の方から直接お問い合わせいただくことも増えてきています。お陰様で、不正検知サービスの利用は直接・間接含めて1万サイトを越えるまで成長しました。

また、2015年からは、社内のデータサイエンス部門を独立させ、不正検知サービスを提供していく中で培ってきた統計解析等のノウハウを活かしたコンサルティングサービスを立ち上げました。お客様が保有されているデータを解析することで、売上拡大や、在庫の効率性向上、人件費の抑制など、お客様の経営をダイレクトに改善するためのコンサルティングサービスを展開しています。当初は4人ではじめた会社ですが、少しずつ業容を拡大し、現在は約30人の大所帯になりました。

2度の資金枯渇の危機 工夫で乗り切る

岩井 裕之インタビュー06

現在、創業8年目ですが、資金面で乗り越えた危機がいくつかありました。
まず、創業1年目に「このままではあと半年で会社がなくなる」という事態に陥りました。メンバー4人のうち、私とエンジニア以外は「自分で自分のお金は稼いでくれ」と派遣会社に登録してもらい、コールセンターなどで兼職してもらっていました。結果的には大きな仕事を受注することができ、何とか生き伸びることができましたが、一時は口座残高が3万円ほどになるなど、ギリギリのところでした。

2度目の危機は、先行投資に対して売上が想定していた水準までなかなかあがらず、投資回収に相当の時間が掛かったことです。あと8ヶ月で資金枯渇というところで、全社員に状況を共有し、経費を削減したり様々な工夫を重ねたりしました。試行錯誤する中でベンチャーキャピタルによる増資が決まり、危機を回避することができました。

お客さんの思いに最初から最後まで応える社名

岩井 裕之インタビュー05

社名は創業メンバーで合宿しながら考えました。「○○システム」や「○○コンサルティング」では世の中の多くの会社にまぎれてしまう。日本の良さを出した、日本語名の会社で、短くてわかりやすくしたいという想いがありました。

「(笑)」を見ると分かるように、カッコには始まりと終わりの中にさまざまな思いがあって、つながっている。最初から最後まで思いがあるお客様の事業をお手伝いしたいということから、この社名に決まりました。

公的支援の活用では東京都中小企業振興公社のインキュベーション施設に入居したり、日本政策金融公庫の劣後ローンを活用したり、様々な支援事業を利用させていただきました。

私は後悔するタイプではないですが、過去の自分にアドバイスを贈るとしたら、もう少しお金の管理をきちんとするようにアドバイスを送ります。資金繰りが悪くならないためには、損益やキャッシュフローだけではなく、いま動いているビジネスの実態をしっかりとみないといけない。理論ではないところで難しいのですが、もう少し気をつけろといいたいですね。

膨大なデータを新たな価値に変える

岩井 裕之インタビュー03

今後は世界のデータを私達が加工することで価値あるものに変えていきたいですね。膨大なデータを取得できる構造をつくっておき、そこで蓄積されたデータに新たな価値を加えることで、お客様の経営の中核に貢献できる会社になりたいと考えています。

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