1. 株式会社COAROO 池 成姫 氏

東京都創業NETインタビュー

株式会社COAROO 池 成姫 氏

株式会社COAROO(コアルー)代表取締役
池 成姫(チー・ソンヒ)
韓国出身。韓国の大学卒業後、24歳で来日。早稲田大学留学を経て日本企業に就職し、特許翻訳の仕事に従事。日本人と結婚し、2児の母として育児に奮闘するうちに「コアルーベルト」の機能を発明し、特許を取得。バッグの製造・販売を始める。有名店での取り扱いを増やし、コアルーブランドの拡大に尽力している。 機能性ファッションブランド (株)COAROO 公式サイト

すべての人に優しい、便利で愛されるアイテムを提供する

「コアルー」とは、コアラのおんぶとカンガルーの抱っこを合わせたのが由来。一つのバッグがリュックやショルダーのみならず、5Wayで使えるという、画期的な「コアルーバッグ」の機能性を象徴している。その使い勝手のよさ評判を呼び、現在は東急ハンズや生協でも取り扱われている。また、吉祥寺発祥のブランドとして、吉祥寺本店を出店。
株式会社COAROOを創業して8年目の池社長に、発明した商品を元に起業・経営していくプロセス、これからの展望を聞いた。

日々の生活の奮闘が、アイデアを生んだ

私は会社を営む日本人の夫と結婚して、2人の子供に恵まれました。夫は仕事が忙しく、義両親は高齢で、育児の協力を求めることが難しい状況。実両親も韓国でしたので、1歳半離れた2児の世話はまさに目が回るような「ワンオペ」育児でした。
日々の忙しさの中、色々な道具に不便を感じながら、「あのおんぶ紐と、この抱っこ紐のここを合わせた方が便利だ」などと言っては、切ったりつなぎ合わせたりして工夫を凝らし、利便性を追求していました。

それが功を奏したのか、あるとき「コアルーベルト」の構想を思いつき、衝撃が走りました。一つのベルトが何通りもの役割を果たす、まさに画期的な発明だったのです。
「コアルーベルト」を使ったバッグは、ショルダー・2通りのリュック・前抱え・メッセンジャーといった5つの機能を備えています。両手を空けたいとき、電車や自転車に乗るとき、荷物の重さを軽減させたいときなど、シーンに適した持ち方にアレンジすることができます。ここまで便利なバッグは周りを見回してもありませんでした。そしてその後、「コアルーベルト」の特許を取得するに至ったのです。

池 成姫インタビュー01

起業の始まりは、「よいアイデアのものは売れると証明したい」という思い

「コアルーベルト」を発明した当初、「このアイデアはライセンスを取って、権利を販売すればビジネスになる」と考えていました。ところが現実は厳しく、個人でアイデアを持ち込んでも、商品として採用してくれる企業にはなかなか出会えなかったのです。そこで、「商品化してもらえないのなら、よいアイデアのものは売れるんだと、自分で証明しよう」と決意しました。それが起業の大きなきっかけになったと思います。

それからは、手作りでバッグのサンプルを作り、アイデアを披露できる場所を探す毎日。発明学会で発表したり、賞をいただいたりもして、商品を知ってもらう機会が増えていきました。展示会で仲間と共同出展をして、企業のバイヤーに高評価を受けたこともあり、自信につながりました。

活動をしていくうちに、今でもお世話になっている中小企業振興公社の方に「ものを作って売っていくなら、会社を作った方がいい」というアドバイスをいただき、起業を考えるようになったのです。また、「価値があるものを、発明した自分が出していかなければ」という気持ちも芽生え、それらが活動の原動力となりました。

資本金ゼロ、起業にはそれなりの準備が必要だった

池 成姫インタビュー02

「会社を作ることは簡単ではない」と思っていましたが、すでに経営者であった夫から「1円でも起業はできる」と言われ、「そうなのか」と単純に解釈して、2010年に会社を作りました。資金はすべて創業制度融資でした。今にして思えば、無謀な会社設立と言われても仕方がないくらい、資本金や事業計画、経営のノウハウなど、色々な面で無知でしたね。

そして、現在のDBJ(日本政策投資銀行)女性起業サポートセンターが開催する「女性新ビジネスプランコンペティション2013」に参加しました。結果は、ファイナリストにはなったものの、受賞はできず……。そこで改めて、ビジネスプランの必要性や重要性を実感し、勉強を始めたのです。事業と勉強を並行させながら、徐々に理解を深めつつ、「起業にはやはり準備が必要だった、もっと早く勉強すべきだった」と後悔しました。

起業して間もなく、震災が大きな試練を招いた

2010年11月に会社を設立し、「コアルーバッグ」を販売し始めて3ヶ月。バッグがNHKなどのテレビ番組で取り上げられて注目を浴び、増産が必要になりました。軌道に乗ったと思った矢先の2011年3月、東日本大震災が起こったのです。すると、途端にバッグが売れなくなっていきました。震災の影響が、会社経営に響くとは考えてもいませんでした。

当時は帆布製の丈夫なバッグをメインに作っていましたが、「ナイロン製のものはないか」「もっと大きくて軽いものはないのか」という問い合わせが増え、震災を境にユーザーのニーズがガラリと変わってしまったのです。

震災後の混乱もあり、経営のノウハウを学んでいる状態だった私には、バッグの製造にストップをかけるという発想はありませんでした。商品は余り、支払いの期限はやってくる。金融機関からの融資も得られない。周囲の理解も受けられなくなってきて、八方塞がりの状態に陥りました。物事が悪いほうに傾き、毎日、自然と命を絶つことを考えるようになっていったのです。

それでもなんとか踏みとどまれたのは、他でもない子供達の存在があったからでした。愛するわが子の顔を見るにつれ「この子達を残してはいけない」「命を絶ったところで問題は解決しない」と、心の底から実感させられ、状況を脱すべく動き出すことができたのです。

事業を継続するにあたって必要な3つの覚悟

池 成姫インタビュー03

とはいえ、動き出すにも、新しい商品を作る資金などありません。私にできたことは、そのときあった商品を一つひとつ売り歩くことだけでした。引き合いがあれば、商品を担いで何処へでも行き、買ってもらうのです。企業やユーザーから直接意見を聞き、バッグのことだけでなく、広報の仕方や説明資料についても、指摘されては改善し、の繰り返しでした。 そんな草の根的な活動が実を結び、ママ友達のネットワークでも自然と協力者が集まり、ユーザーの熱意や善意にも後押しされながら、少しずつ「コアルーバッグ」のよさが伝わっていったのです。

「コアルーバッグ」は、すべての人が、あらゆる場面で使えるアイテムです。そんなバッグを世に広めていくためには、たくさんの人の意見を取り入れてブラッシュアップする必要があったのだと思います。応援してくれた方、ご指導くださった方、多くの声に、ときには振り回され、戸惑いながら、転びながら、ここまでやってきました。遠回りをしたこともありましたが、結果として無駄なものは全くありませんでした。これまでに得たスキルや経験、人脈はすべて私の大切な財産になっています。関わってくれたすべての人に、感謝の気持ちでいっぱいです。

私がこれまでに学んだ「事業者に必要な覚悟」は、「いかなることがあっても生き残ること」「耐えること」「人のせいにしないこと」の3つです。この学びは、私の人生においてとても大きな収穫でした。 もし事業を続けていなければ、こんな大切なことを知らないまま、気づかないまま過ごしていたかもしれません。大きな苦労も挫折もありましたが、やはり起業してよかった、と強く感じています。

コアルーバッグに託す夢~ユーザーに愛されるアイテムとして

池 成姫インタビュー04

「コアルーバッグ」については、新しい展開を考えています。現在、正式な店舗は吉祥寺本店のみですが、今後は国内外の各地にフランチャイズで拠点を増やし、その地域の販売を地元で完結できるような仕組みを作っていきたいと思っています。私と同様にゼロから始めるのではなく、コアルーブランドを元にして、子育て中の女性が起業できるようなスキームを作りたいですね。

私の夢は、気持ちにも身体にもやさしい「コアルーバッグ」に魅力を感じてくださる方が一人でも増えてくれることです。そして、そんな「コアルーバッグ」のファンが各地に店舗を構え、地元のユーザーさんとコミュニケーションを取りながら地域に根差し、デパート他小売店でも取り扱ってもらえるまでになったら嬉しいですね。これからも、たくさんの人に愛されるアイテムとして、コアルーブランドを成長させていきたいです。

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