1. トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社 中西 敦士 氏

東京都創業NETインタビュー

トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社 中西 敦士 氏

トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社 代表取締役
中西 敦士
慶應義塾大学卒業後、大手企業向けのヘルスケアを含む新規事業立ち上げのコンサルティング業務に従事。 その後、青年海外協力隊でフィリピンに派遣。2013年よりUC Berkeleyに留学し、MBTプログラム修了後独立し、2014年アメリカにてTriple Wを設立。翌年にトリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社を設立。世界初の排泄を予知するウェアラブル機器「DFree(ディーフリー)」を開発。介護問題が重要視される現代社会において、瞬く間に世界各国から注目を浴び、世界規模のマーケットにおいて事業展開を着実に広めている。「DFree」を開発までの波乱万丈な自叙伝『10分後にうんこが出ます―排泄予知デバイス開発物語―』も発売中。
トリプルダブリュー Webサイト

失敗をチャンスに変え、世界規模で事業を展開

アメリカ留学中に大便を漏らしてしまうという経験をした中西氏。しかしこの苦い経験を元に、超音波によって膀胱の変化を検知し、排泄のタイミングをスマートデバイスに知らせする機器「DFree」を開発する。導入している介護施設や病院の数は日々拡大を続け、2017年より、フランスの大手介護施設における本格導入を目指しパリにフランス支社を立ち上げるなどヨーロッパでも拡大。アメリカや中国はもちろん、世界中で事業を加速させている。介護業界に新しい風を吹き込んでいる中西氏に、起業にあたっての様々な苦労や注力点、今後の展望について話を聞いた。

お金儲けだけではない何かを探して

起業については、自分で事業を行っていた祖父の影響が大きいです。僕が小学校4年生だった時、祖父の葬儀で、親戚の人たちから祖父に関する話を聞いたことがきっかけで、僕も会社経営に憧れを抱くようになりました。その後社会的にも学生起業家の存在が目立ちはじめ、僕の気持ちにも拍車がかかり起業家を目指すようになりました。大学も商学部に入り、事業を起こす為の勉強過程としてコンサルティング会社に勤め、青年海外協力隊での派遣や留学、ベンチャーキャピタルでのインターン等様々な経験を積みました。常日頃から日常生活において不満や不便に思うことを書き留め、その解決策を考えるようにして、いつどこで何を始めるのかを模索していました。

僕はこう見えて競争することはあまり好きではなく、ただ単にお金を稼ぐだけの事業にもあまり魅力を感じていませんでした。どうせやるなら世の中の役に立つ他にはないことをやりたいなと……。そんな矢先に例の苦い経験をしてしまい、排泄のタイミングを予測するというアイデアを思いついたのです。自分で考えていた幾つかのアイデアをベンチャーキャピタルや連続起業家の方々に見てもらった際、このアイデアへの反応は群を抜いており、自分の中で「これはいける」と確信を持てるようになりました。その時にたまたまアメリカにいてビザの関係もあったので、まずはアメリカで法人を立ち上げたんです。投資してくださる方々が日本に多かったので、活動の基盤は日本になりましたが、起業するにあたって場所は初めから限定していませんでした。

中西 敦士インタビュー01

起業の苦労を乗り越えられたのは「人」のおかげ

よく、起業する上で苦労した点を聞かれるのですが、全部です(笑)。会社や商品を一から作り上げるのはやっぱり大変。思い通りにいかないことばかりです。やはり資金集めには苦労しました。それは、起業を志す誰もが抱える一番の悩みだと思います。クラウドファンディングを試して、短時間に多額の資金を集めることができ、ニーズの高さを感じることができました。でも、介護の現場って「今」が大変なわけで、1年後2年後では遅いんですよ。商品を形にするまでの時間がかかりすぎるということで、結果的には全額返金をするという苦しい決断をしました。

後は、やはり人材の確保ですね。ありとあらゆるつてを利用して、協力してくれる人を探し、次々と口説き続けました。そんな中、無償で手伝ってくれた友人には、感謝しています。特に初期の段階では、友人や 家族の存在には助けられました。また、物を作ることって本当に難しいんだなと思います。良い物を作れば絶対に売れるというわけではないですから。

例えば介護施設などは働いている方々の年齢幅も広く、同じ施設内でも人によって考え方が違うので、仕事をする上で重要視する観点も十人十色です。そういった状況をこちらが理解し、多くの方々に受け入れてもらえるようにすることが大きな課題のひとつです。

中西 敦士インタビュー02

テーマ設定の見極めが大切

起業については、テーマ設定を間違えないことが大事だと思います。僕は大手企業へのインターンや留学を経て、多くの優秀な方々に出会うことがありました。そういった方々を見ていても、知性に優れていれば起業に成功するわけではないんだと思いました。本当にこのテーマでやっていけるのか、勝てるのか。テーマをしっかりと見極めることが大切です。テーマ設定を誤ってしまうと、どんな優秀な方でもうまくいかない領域はたくさんあります。

時代の流れに沿ったテーマを選ぶということは、起業する上で一番重要なことだと僕は思います。そこさえ間違えなければ、雨が降ろうが槍が降ろうが、前進あるのみ。時間はかかってもいつかは成功できるはずです。実際に僕も「排泄を予測する」というテーマには自信があったので、思うように前に進むことができなくても、止めようとか諦めようとか思ったことはありません。

そして、それは本当に自分がやりたいことなのか、という視点も大事です。僕がこの社会福祉の領域で仕事をするようになったのは偶然の出来事なのですが、足を踏み入れてみると、とても興味深い領域で課題も多く、本当にやりがいを感じます。中でも商品を使っていただいたお客様からの喜びの声は、一番の原動力となっています。もちろんお金を稼ぐことは重要なことですが、お金には代えられない達成感というものもテーマ設定の上で、重要だと思います。

不測の不幸を減らしていきたい

「DFree」にはまだ開発の余地が多々あるので、まずはそこを改善し、排泄に関してはすでに製品化している尿と今開発中の便の両方で商品化を目指しています。そして、現在、アメリカ、ヨーロッパ、中国で事業を展開しているのですが、さらに世界中へと広めていきたいです。「DFree」を通して、社会福祉の分野でいかに課題が多いかを目の当たりにし、この分野での問題解決に力を注いでいきたいと思うようになりました。

これからも社会福祉の課題に対しテクノロジーを駆使して問題を解決し、介護の領域や人が生きるQOLに役立つ様々な選択肢を提供し続け、日常生活上でのリスクを少しでも多く減らしていきたいです。超音波を利用して様々な臓器状態を把握できるようにし、最終的には寿命の予測なども目指しています。排泄だけに限らず不測の不幸を少しでも減らして、多くの人の苦痛を減らしていけたらいいですね。

中西 敦士インタビュー03

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