1. 創業手帳株式会社 大久保 幸世 氏

東京都創業NETインタビュー

創業手帳株式会社 大久保 幸世 氏

創業手帳株式会社 代表取締役社長
大久保 幸世(おおくぼ・こうせい)
明治大学経営学部卒業後、外資系保険会社、株式会社ライブドアを経て、株式会社メイクショップ(GMOグループ)で役員として経営に携わる。2014年に35歳で創業手帳株式会社(旧ビズシード株式会社)を創業、全国の起業家に無料のガイドブック「創業手帳」を無料で届ける仕組みを作り上げた。起業ミッションは「日本の起業の成功率を上げる」。起業家は「創業手帳」全てのサービスを無料で利用できる。

創業支援からスタートし、承継までカバー 会社の課題解決に挑む

「創業手帳」は今や累計100万部を発行し、全国の金融機関や官公庁、インキュベーション施設などで利用されている。起業時に必要なノウハウをまとめて紹介、内容は資金調達から税務、法務、経営戦略まで多岐にわたる。紙媒体からスタートした「創業手帳」は、WEB、アプリ、コンサルサービスへと幅広く展開。起業5年で創業手帳を日本最大級の起業家メディアへと急成長させた大久保社長に、自身の起業、起業する人への想いなどを聞いた。

起業は特別なことではなく、「会社を経営する」という職業

起業というと何か特別なことをするように思う人が多いですが、夢のような話でも、失敗したら終わりという切羽詰まった話でも、ステップアップの頂点というわけでもありません。起業は「会社を経営する」という職業であり、靴屋さんやサラリーマン、会計の仕事など数々ある職業の中の一つであると私は考えています。私の家は、父が事業を営み、母が勤め人という環境でしたので、事業主とサラリーマン、両方の働き方を見ながら育ちました。どちらがいい、悪いということはありません。ただ私には「経営の仕事をする」という選択肢が小さいころからあり、いつか起業すると決めていました。

とはいえ、起業は想いだけでできるものではなく、自分に何のノウハウもないままではうまくいかないことも分かっていました。そこで私は、大学を卒業してまずは大企業に就職してマーケティングなどを学び、その後、小さい会社で役員として働くことで経営的なノウハウを勉強しました。そして、35歳で自分の会社を立ち上げました。起業1か月で事業を軌道に乗せることができたのも、長期的な視点で自分のキャリアにおいて起業の準備を進めてきたことが大きいと思います。

起業とは自分でリスクを取り、自分の看板で、自分で全てを決めて行うこと。それはやはり大変なことです。一方、サラリーマンは、他人のリスクで仕事をし、しかも給料がもらえるというとても恵まれた立場にあります。会社に入れば自分の思うようにできないことも多いですが、起業する人にとっては最大の勉強の場です。今はサラリーマンとして働いていていずれ起業したいと思っている人は、今のうちに会社から多くのことを吸収するとよいと思います。

大久保 幸世インタビュー01

誰もが通る「起業」というフェーズは早く通り過ぎるべき

事業として起業支援を行おうと思ったのは、役員として勤めたGMOグループの会社で多くの起業家と接する中、彼らが同じところで苦労し、つまずくのを見ていたからです。そこにガイド、サポートが必要だと感じました。

起業すると、会社設立の手続きや資金調達、会社の内部を整えることなど次々にやるべきことが発生しますが、初めてだと分からないことだらけです。しかしそれは誰もが通る道であり、そこに時間やお金をかけるべきではありません。そんな思いから始めたのが、「会社の母子手帳」のようなガイドブックを作り、創業時に必要なノウハウをまとめて提供するサービスです。「起業」というフェーズは早く通り過ぎるべきです。ダイエットに失敗してダイエット法に詳しい人、毎年禁煙をしている人のように、起業に詳しい起業家であってはいけないのです。

一方、お客様に提供するサービスや商品は、一人として同じではありません。起業家が強みを生かして力を注ぐのは、そこを差別化することです。商売の本質は、世の中の需要に応えてサービスを提供し、お客様に満足していただくということ。市場は非常に正直で、よいものは生き残るし、そうでないものは淘汰されていきます。会社が成長していくためには、まずはいいサービスを提供すること。そして、ノウハウを蓄積し、人材を集める。一番大切なのはリピーターを増やすことで、繰り返し買っていただくことで単価が上がり、売上が伸びていく。そうなったところで次の手を考えていくことになるのですが、そこまでいかずに終わってしまう方が多い。とにかく早く事業を軌道に乗せることです。スピード感を持って試行錯誤を繰り返すことですね。外部の力を上手く借りることも大切だと思います。

「全員に届ける」ことを重視すると無料配布という形になった

「本当にやる気があるか」「何を重視しているか」。この会社のミッションの部分がちゃんと決まっていれば、事業は何とかなるものです。私たちは「日本の創業成功率を上げる」ということをミッションとしており、そのために創業手帳を作っているのですが、「全員に届ける」ということを重視しました。無料で配布するのはそのためで、有料化は一切考えませんでした。細かいところはよりよいものにどんどん変えていっていますが、無料配布だけは変えるつもりはありません。確かに広告収入だけで事業モデルを成り立たせるには、ひとひねり必要です。でも、GoogleやYahoo!が無料でサービスを提供しているように、工夫すれば何とかなるものです。本当にやりたいことは何なのかを考えると、そのための方法は必ず見つかります。

おかげさまで多くの人に創業手帳を知っていただいております。ありがたいことに「会社のバイブル」と言っていただくこともあります。ただ、「バイブル」という言い方は正しくありません。バイブルは読むもの、眺めるもの。起業は自分から能動的に行うものです。「手帳」という名前にしたのは、余白の部分を自分で埋めていってほしいという想いがあるからです。

大久保 幸世インタビュー02

東京は起業家にとってとても恵まれた環境

「世界の中の東京」という視点から見ると、東京はとても恵まれた場所であるといえます。経済規模は世界トップレベル、お金も専門家のネットワークも狭い範囲に集積されています。一方、起業率は世界の他の都市と比べると低い。これは起業家の目線から見ると、経済が集中しているのにライバルが少ない、ということです。シリコンバレーや上海は確かに活気にあふれていますが、その分、競争もとても激しい。東京には、起業家が勝てる条件がそろっているといえるでしょう。

今の日本経済の三大課題は、「創業」「人材」「承継」です。創業については、支援環境が整い、ハードルが下がってきました。人材については人手不足の裏返しとしてAIの活用があり、これも日本の技術力が解決していくでしょう。残った課題は承継です。日本の企業は成長期を過ぎ、衰退期に入っているところが多い。承継、つまり代替わりをしないと続いていかないのです。そこをどう解決していくかがこれからの最大の課題であり、わが社もそこに挑戦していきます。創業から承継まで、ゆりかごから天国まで、会社の課題をカバーしていきたいと考えています。

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