1. 後藤醸造 後藤 健朗 氏

東京都創業NETインタビュー

後藤醸造 後藤 健朗 氏

後藤醸造 代表
後藤 健朗
1984年生まれ。東京農業大学卒業後、食肉卸会社に就職し、7年間営業などを担当。赴任先の山梨でクラフトビールを製造販売する「アウトサイダーブルーイング」と出会い、ビールの世界に開眼する。その後、食肉卸会社を退社し、日本の地ビール醸造の草分け的存在、サンクトガーレン(神奈川・厚木)で1年半勤務。2016年7月に独立し、ビアバー「後藤醸造」を開店する。2017年9月からは自社工場で醸造したクラフトビール「経堂エール」の販売をスタート。瓶ビールは2019年世田谷みやげに認定されている。ビアバーがテレビドラマ「ワカコ酒」のロケ地になるなど、各方面から注目を集めている。
後藤醸造 Webサイト

東京農大OB夫妻が二人三脚で作るこだわりのクラフトビール

世田谷初のクラフトビール醸造所が、小田急線「経堂駅」から歩いてすぐのところにある。併設のビアバーは、白木の家具で統一されカフェのような雰囲気。そこからガラス越しにビール醸造の様子を見ることができる。醸造長兼シェフの後藤健朗代表と経理・広報担当を務める妻の由紀子氏は共に東京農業大出身で、夫婦二人三脚でクラフトビールづくりに取り組んできた。後藤代表に、起業までの道のりやビールづくりへの想いを聞いた。

「ものづくり」に挑戦、娘に誇れる仕事がしたい

ビールはもともと飲むのが好きでしたが、最初からビールづくりの仕事をしようと考えていたわけではありません。一番のきっかけは、赴任先の山梨・甲府で、クラフトビールを醸造するアウトサイダーブルーイングと出会ったことです。ビール醸造というと、大きなプラント工場で従業員が何人も働いているようなイメージがありましたが、アウトサイダーブルーイングは駅前の商店街にあり、洋服屋さんを改装したものです。1階が醸造所、2階がレストランというこぢんまりとした規模にもかかわらず、様々なビールを醸造していることに衝撃を受けました。

私は大学時代に農学部で工芸作物(加工、製造工程を経て製品になる農作物)を研究していたので、ホップを自分で作ったこともありましたし、麦の栽培方法も分かっていました。お酒こそ作った経験はありませんでしたが、農作物を使ってビールを醸造するということが手の届く範囲でできることに驚いたのです。こんなふうに自分の好きなものを自分の手で作れたら面白いだろうなと、ビール醸造の仕事に強い魅力を感じました。

当時は食肉卸会社でルート営業の仕事をしており、忙しい日々を送っていました。ちょうど娘が生まれ、娘の将来に思いをはせることがありました。彼女が大きくなったときに、「これがお父さんが作ったものだよ」と娘に誇れる仕事をしたい、「ものづくり」に挑戦したいという気持ちが強くなりました。

後藤 健朗インタビュー01

酒造免許の取得に1年半、多くの人の協力で実現

一番苦労したのは、酒造免許を取得することでした。酒造免許を取得するためには、お酒を「作り続ける能力がある」「作ったお酒を販売する力がある」「税金を払える経済力がある」という要件をクリアすることが必要です。それは、個人事業主だった私たちにはとてもハードルが高いもので、結局1年半かかりました。これを実現できたのは、多くの人の協力があったからにほかなりません。

「作り続ける能力」については、サンクトガーレンでの醸造経験を評価していただいたほか、アウトサイダーブルーイングの丹羽智醸造長にアドバイザーとして入ってもらったことが大きかったと思います。「販売する力」「税金を払える経済力」を示すには、実際にビールが売れるということを証明しなければなりません。そこで、ビアバーを先行してオープンし、日本各地のクラフトビールを販売しました。それに加えて、地元商店街の飲食店のみなさんから、ここでクラフトビールを醸造・販売したら注文するという「請書」のようなものを提出してもらいました。一件一件お願いに行って、まるで署名活動みたいでしたね。ありがたいことに「世田谷でクラフトビールを作る」と言うと、みなさん「それは面白そう」と協力してくださいました。

醸造タンクなど設備面については、食品容器を製造販売するコトブキテクレックスさん(千葉・袖ヶ浦)にお世話になりました。タンクと一言で言っても国産や欧米産、中国産などいろいろあり、何をどう選べばいいのか分かりませんでした。偶然にもコトブキテクレックスの社長にはかつて北海道で地ビール醸造に携わった経験があり、たくさんのことを教えていただきました。そして、中国へ買いつけに行くことになったのですが、社長自ら同行してくださったのです。

後藤 健朗インタビュー02

クラウドファンディングで瓶詰機を購入

後藤醸造の定番ビールは「経堂エール」で、モルトの苦みとコク、ホップの香り、苦みがバランス良く感じられるビールです。おかげさまで「これを飲んだら、他のビールは飲めない」とおっしゃってくださるファンの方もいらっしゃいます。そんな方たちの「家でも飲みたい」「おみやげにしたい」という声に応えて、18年秋から瓶ビールの販売も始めました。瓶ビールを販売するには瓶詰機が必要ですが、この費用はクラウドファンディングで集めました。妻の由紀子が中心となって盛り上げてくれましたが、256人の方から目標金額200万円を大幅に上回る330万円の支援をいただくことができました。これは2019年の世田谷みやげにも認定されています。

うちで作るクラフトビールには一つひとつにストーリーがあります。例えば「インペリアル・カルダモン・スタウト」は、今、アルバイトに来てくれている東京農大4年生4人の卒業制作です。「黒いビール」「アルコール度数を高く」「酵母の香りがする」「カルダモンを入れる」と、4人がそれぞれ作りたいビールのアイデアを出し、それを実現させました。また、「シトラス・ガーデン」は、私の実家の隣の庭(ガーデン)で取れたゆず(シトラス=柑橘類)と、常連さんの家の庭でとれたすだちを入れて作りました。「シトラス・ガーデン」という同名のタイトルのゲーム音楽を作っていた方が、ビールを飲みにわざわざ来てくれたこともあります。

経堂でクラフトビール文化を盛り上げたい

世田谷区経堂という土地を選んだのは、私が東京農大の学生時代を過ごした思い入れのある場所だったからです。老若男女がバランスよく居住し、昔から住んでいる人も多い。なじみのある東京農大の先輩・後輩も多く、商店街の方々もあたたかい雰囲気です。常連さんは、うちへ飲みに来ることを「後藤さんちへ行く」と言ってくださいます。今後はもっとここで経堂のみなさんと一緒にできることをしてみたいですね。例えば、世田谷は民家が多く、庭で野菜を作っている人も多いので、ビール醸造の際に出る麦かすを肥料として使ってもらい、そこでできた野菜をビールの原料として使えば面白い循環が生まれます。

今はみなさんに立ち飲みビアバーとして待ち合わせなどにも気軽に利用していただいていますが、ゆっくり座って飲んでいただきたいという気持ちもあります。今後は店舗を増やすこと、そして、ビールの需要が増えれば工場をもう一つ増やすことも考えています。ここ経堂で、クラフトビール文化を盛り上げていきたいです。

後藤 健朗インタビュー03

PAGE TOP