1. 株式会社OKAN 代表取締役CEO 沢木 恵太 氏

東京都創業NETインタビュー

株式会社OKAN 代表取締役CEO 沢木 恵太氏

株式会社OKAN 代表取締役CEO
沢木 恵太氏
大学卒業後、フランチャイズのコンサルティング会社に入社。数年後にソーシャルゲーム開発企業に転職しプロデューサーとしてのスキルを身につける。企画責任者まで任されるようになったが、経営者としての胆力を求め、ゲーム業界とは真逆の教育系ベンチャーでスタートアップを経験し、組織を大きくする力を学ぶ。2012年に生活インフラの負の部分を解決しようと個人向け総菜配送サービスで起業。「株式会社OKAN」として法人向けサービスにシフトし、急成長を遂げている。
株式会社OKAN Webサイト

労働環境を改善し、望まない離職を減らしたい

労働人口が減少し、雇用の流動性が高まっている今、優秀な人材を確保し組織力を上げることは企業にとって大きな課題である。株式会社OKANは、食生活の支援を通して職場環境をサポートする法人向け社食サービス「オフィスおかん」の提供で注目を集め、ビジネスを拡大してきた。2019年、取引先からの声と自社ノウハウを活かし、離職の約8割の理由となっている「ハイジーンファクター」に特化した調査・分析サービス「ハイジ」を開発。売上額も採用人数も年々倍になっているという急成長企業 株式会社OKAN 代表取締役CEO 沢木恵太氏に、起業までの道のりと事業への想いを聞いた。

「30歳までに事業をつくる」を目標に

事業を起こすことには学生時代から興味がありました。商学部に在籍し、就職活動を行いながら、「社会人とは何か」を考えた結果、社会に貢献するのが社会人であるとの結論に至りました。同じ貢献をするなら大きく貢献したい。身近な人よりも、より多くの人に影響を与えたいと思ったんです。その仕組みをつくるために、経済に目を向けました。そして「30歳までに事業をつくる」ことを目標にしたのです。

大学卒業後は、新卒でフランチャイズのコンサルティング企業に入社しました。そこで、加盟店の支援を行いながら企業の仕組みづくりを身につけることができました。時代はスマートフォンが普及し始める直前の2008年~2009年ごろ。忙しく働きつつもITにシフトする必要性を痛切に感じていました。当時は自分自身もフランチャイズ業界もITに疎かったので、ソーシャルゲームの開発企業に転職し、ITやWebの渦中に身を置きました。メールマガジンを書くところから始まり2年でプロデューサーとして任されるまでになったものの、もともと事業を始めることを目標に掲げていたこともあり、非日常のゲーム業界では経営者に必要な胆力を培えないと思っていました。そこで、より日常の生活に目を向けるべく、ゲーム業界とは真逆である生活インフラを求めて教育系ベンチャーへ転職。スタートアップを経験することで、組織を大きくするフェーズを学びました。その後、個人向け総菜の配送サービスで起業することになったのです。

日々の食生活を豊かにして健康的な暮らしを

総菜配送サービスを始めたのには理由があります。新卒で入った会社に勤務していたころは、長時間労働によって食生活がおろそかになり、体調を崩しました。その後離職したのは、時流にのってIT知識を得るというモチベーションもありましたが、健康を害するほどの生活の乱れも原因だったのです。食の問題は離職の理由にもなり得るということですね。

そしてあるとき、新卒で入った会社で同僚だった知人から「福井で総菜メーカーを継いだ」という話を聞きました。同社の「添加物を使わず惣菜を1か月保存できる」という技術に共鳴した私は、「これならビジネスにつながるのでは」と感じたのです。はやる思いを胸に実績もないまま福井に行き、プレゼンを行い、熱意を買っていただく形でなんとか総菜の提供に漕ぎつけました。このとき受け入れていただけたのは、自分の経験からくる「食」の大切さへの想いと、「食」の問題を解決することで望まない離職を減らすという夢、事業への期待値だったと思っています。

起業は資金との戦い

惣菜の配送で事業を開始するにあたり、個人向けで展開するか、オフィスで展開するかを検討した結果、単独で行う事業として始めやすい個人向け総菜配送を選びました。起業は資金繰りとの闘いと言われますが、私もそうでしたね。大手宅食サービスが業界の多くを占める中、当初の私の資金は50万円。「1か月保存できる惣菜の個人配送」は、機能的には十分でしたが、なかなか軌道にのりませんでした。

当時は日々の生活のため収入が必要だと思っていたので、目の前のお金を稼ぐために受託で就活生向けのキャリアカウンセリングの仕事を請け負っていました。私には家族がありましたし、妻は妊娠していて、2人目の子どもを出産するという時期だったんです。それでも、惣菜配送の個人顧客はなかなか増えないし、機能だけでは売れない……。そこで、冒険ではありましたがキャリアカウンセリングの仕事を辞めて、惣菜宅配一本に絞ることにしました。事業と目先のお金、両方を追いかけていてはだめだと思ったのです。自分ひとりで始めた事業だったので、リスクがあっても自分でコントロールできるのがリスクヘッジでした。万一どうにもならなくなったらどこかに就職すればいい、と思っていたぐらいです。とはいえ、家には本当にお金がなかったんですよ(笑)。会社の残高は数万、家計の残高も数万というありさまでした。

法人向けサービスで事業が成長

退路を断って事業に集中した私は、惣菜の法人向けサービスを手掛けました。忙しい妻を見ていて、家事の負担軽減のためにも、素材が確かで日持ちする惣菜は必要だという確信がゆらぐことはありませんでした。

沢木 恵太氏インタビュー

事業を成長させるための投資と思い、政策金融公庫から借り入れをして、法人向けサービスのベータ版をリリースしました。Webサイトは自分で作成しましたね。そのベータ版でテストとヒアリングに協力いただける企業を募集したところ、たまたまメディアにとりあげていただいたこともあり、予想以上に応募が殺到したのです。テストとしてリリースしたベータ版については各社の反応もよく、個人向け惣菜配送サービスを立ち上げた1年後、2014年に法人向けサービスをリリースするに至りました。

サービスローンチから3か月後、ベンチャーキャピタルから5000万円の出資を受けました。そのあたりでやっと事業を軌道にのせることができたと思います。法人向けサービスを始めたその年に社員が1人、翌年は10人、それ以降は社員数が毎年倍に、業績も倍になり、事業は順調に成長しています。

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「オフィスおかん」は、オフィスにいながら100円で健康的な総菜が手に入る、置き型社食サービスです。「時間がなくてもオフィスの中で健康的な食事をとる環境を用意することで、望まない離職を防ぐことができる」というその取り組みに賛同し、導入してくださる企業様が多数いらっしゃるので、弊社が今これだけ成長できていると考えています。

今年7月、離職の原因となるハイジーンファクターを取り除くための調査・分析を行うサービス「ハイジ」のベータ版をリリースしました。労働人口が減っている日本で私ができることは、最適な労働環境をつくること。今後は、仕事と生活に関わる個人の価値観「ワーク・ライフ・バリュー」を各企業が理解し、従業員をサポートするための支援サービスを提供していく予定です。

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「目的意識を持つ」ことを忘れずに

モットーというほどのことではないですが、私は常に「目的意識」を持つことを大切にしています。学生時代に「社会に貢献するのが社会人」「多くの人に影響を与えたい」という想いを持ち、30歳までに事業をおこすことをマイルストーンとしてきました。大学時代に会計のいろはを知り、最初に入社した会社で企業の仕組みづくりを学び、次のゲーム会社でIT知識を身につけ、教育ベンチャーで事業を大きくするノウハウを得る……という足跡は、すべて事業をおこすという目的のために歩んできた道です。職種を変えながらここまでたどり着いたのは、事業をおこすという「目的意識」を持ち続けてきたからに他なりません。ですから、私は目的からブレイクダウンすることを重視していますし、今の社員にもそう伝えています。事業も会社も組織も、私にとっては手段。その先に何があるかを考えれば、とるべき行動も見えてくるのです。

もう一つ、心掛けていたことといえば、チャンスをつかむための「場」に参加するということでしょうか。起業する段階になって準備らしい準備はしていませんでしたが、異業種交流会やビジネスコンテストなどにできるだけ参加するようにしていました。法人向けサービスを始めた後に出資を受けることができたのも、あるビジネスコンテストがきっかけです。応募した200~300社のうち10社にメンターがついて、最後にサイバーエージェントの藤田さんにプレゼンテーションを行うという起業家向けのコンテストがあったのですが、メンターが投資会社の方で、コンテストのプレゼンはいいから出資するよという話をいただいたんです。何が言いたいかというと、人脈は勝手にうまれているわけではないということですね。起業への準備はそういう場にいくことがある意味準備だったのかもしれません。

沢木 恵太氏インタビュー

起業をするにあたってのリスクは、皆さんが考えているより低いです。今の日本では、どうにもならないということはありません。失敗したとしても糧になりますから、まずは行動することをおすすめします。経験がなくてもお金がなくてもできることは、自分のやりたいことを周囲に話すこと。そこにネガティブな要素は一切ありません。なぜなら、人に話すことで考えが整理できますし、聞いた人が次のアクションを起こしてくれることもある。場づくりにつながることもあるでしょう。スキルがあるかどうかは小さなこと。やりたいことが決まっていることや熱意があることのほうが大事なんです。臆せずに行動を起こしてほしいですね。

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