1. 有志団体CARTIVATOR(カーティベーター) 共同代表 中村 翼氏

東京都創業NETインタビュー

有志団体CARTIVATOR(カーティベーター) 共同代表 中村翼氏

有志団体CARTIVATOR(カーティベーター) 共同代表 
中村翼氏
子どもの頃から自動車が好きでエンジニアになるのが夢だったという中村翼さん。慶應義塾大学理工学部に進学し、学内でレーシングカー製作のサークルに所属し、車づくりに明け暮れたという。トヨタ自動車に就職し、入社4年目の2012年に、会社業務とは別にビジネスコンテストに応募。オーダーメードの小型電気自動車の企画で優勝。これをきっかけに、未来の子どもがあっと驚くようなクルマの開発をしたいと「空飛ぶクルマ『SkyDrive』の開発に着手。会社員を続けながら開発を続け、2019年に有人向け試作機の飛行開始に成功する。
有志団体CARTIVATOR(カーティベーター) Webサイト

空飛ぶクルマで世の中を変える

有志団体CARTIVATORは、自動車・航空業界、スタートアップ関係の若手メンバーを中心とした業務外有志団体。「モビリティを通じて次世代に夢を提供する」ことをミッションに、毎週末活動を行っている。具体的にはエンジニアやデザイナーなどのバックグラウンドを持つメンバーを中心に、空飛ぶクルマの技術開発と事業開発に取り組んでいる。2050年に誰もが当たり前に自由に空を飛べる時代の実現に向けて、量産インフラを持つ大企業との連携を目指している。CARTIVATORの由来は『クルマ(CAR)』と『開拓者、向上させるもの(CULTIVATOR)』を掛け合わせた造語で、でワクワクする体験を生み出すという想いから。

ビジネスコンテストに優勝し一度は起業を試みたが……

――有志団体というのは、どういうことですか? 組織運営はどのようにしているのでしょうか。

私たちは「モビリティを通じて次世代に夢を提供する」ことをミッションに集まった、文字通り有志の集まりで、企業ではありません。愛知県豊田市と東京赤坂に拠点があり、メンバーは100名超。皆、会社勤めなど本業があり、基本的には週末を中心とした仕事の合間にボランタリーで参加しています。大きくは技術と事業の2グループに分かれていて、技術では設計や制御システムの開発・部品加工・実験など実際に作る作業を行い、事業では、スポンサーとの交渉や経理・広報などを行っています。

――中村さんは、もとはトヨタ自動車の社員だったそうですが、現在に至るまでの経緯を教えてください。

子どもの頃から自動車が好きでエンジニアになるのが夢でした。トヨタ自動車でエンジニアになり、ひとつ夢がかないました。次の夢は、僕が子どものときに自動車にあこがれたように、次の世代の子どもたちの夢となるようなインパクトのあるモノを開発するということ。社内でその夢を実現するには、実績を積んでからとなり10年はかかるだろう、それなら自分でやろうと思い、ビジネスコンテスト「維新」に参加しました。オーダーメードの小型電気自動車の企画で優勝し、ベンチャーを立ちあげようと考えました。

ところが、周囲から「自動車の開発には時間もお金もすごくかかる。一ベンチャー企業ができることではない」と説かれ、起業ではなく社内で企画提案しようと考えました。しかし、企画書だけでは説得力がなく本気度も伝わらない。そこでプロトタイプを作ろうと思い立ちました。

学生時代に、サークルでレーシングカー製作を行っていたのですが、他の大学で同じことをやっていた仲間が社内の同期に30人近くいたので声をかけたんです。すると「面白そうだ」と10人くらいが集まってくれました。オーダーメードの車だけでなく、もっとアイデアを出し合おうと他にも広く仲間を募り、100個のアイデアを出しました。その中から、最も夢があるものということで、「空飛ぶクルマ」に決定。自分でも、そんなことできるの?と半信半疑でした。でも失敗しても失うものは何もないと思い、2014年1月に空飛ぶクルマ『SkyDrive』の開発に着手したのです。

その後、何度かの奇跡的な出会いやチャンスが訪れ、昨年12月には有人向け試作機の飛行実験を行うところまでこぎつけました。今年2020年には本格的なデモフライトを行い、2023年には有人機の販売をスタートしたいと思っています。

中村翼氏インタビュー

有志たちと空飛ぶクルマの開発に着手。いくつかの奇跡によって開発が加速する

――ここまでに、ビジネスコンテストで優勝してから8年の年月がかかっているのですね。途中でどんな奇跡が起こったのでしょうか。

仲間たちと週末起業のような形で開発を続けてきました。2014年に1/5スケール試作機を制作したのですが、その時には約50万円ほどの費用をメンバーで出し合ってなんとか賄いました。しかし、実物大の試作機を作るには数百万、数千万単位のお金が必要です。

この時、『TOKYO STARTUP GATEWAY』で優秀賞受賞、クラウドファンディング『zenmono』で260万円の支援獲得という奇跡が重なり、資金を集めることができました。メディアにも取り上げられ、社会的認知も高まりました。

2015年にもう一つの軌跡が起こります。京都で、私たちと同じような空飛ぶ車椅子の開発をしている方や、徳島大学でドローンの姿勢制御を研究している三輪准教授らと知り合うことができたのです。そこから共同開発が始まり、思いのほか早く実物大の試作機の試験に移ることができました。

2016年の秋に次の奇跡が起こりました。

いろいろな方の手助けを得て、開発を進めてきたものの、資金不足には常に悩まされてきたので、なんとかトヨタ自動車の社内プロジェクトにできないかと、アプローチを続けてきましたが、うまくいきませんでした。会社員を続けながら副業的に開発をするのも限界があり、最後に社長にプレゼンをしてダメならあきらめて社外に出て起業しようと決意したころに、チャンスが巡ってきました。新規事業の部門を統括する部長が、「会長と副社長に話す機会を設けよう」と申し出てくれたのです。

私はダメなら会社を辞める覚悟でプレゼンをしました。ところが幸運なことに、会長も副社長も興味を持ってくれ、グループ会社15社からの協賛金獲得に協力してくださることになりました。これは新聞でも大きく報じられ、そこから一気に、当初20人程度だったメンバーが100人超に増え、スポンサー企業も増えました。それらの奇跡を元に、本格的に事業化するために2018年に立ち上がったのが株式会社SkyDriveです。

さらにありがたかったのは、私自身がトヨタ自動車に籍を残したまま、大学の研究機関の研究者として開発が続けられるようポストが用意されたことです。週末に時間を捻出して開発に携わってきたので、これはとても助かりました。

――開発の途中で「もうだめかも」と、くじけそうになったことは?

技術的な問題やモノづくりの過程での困難もさることながら、資金集めや企業の賛同を得ることのほうが難しかったですね。いつ完成するかわからない、本当に実用化できるのか、利益を出せるのかわからない段階で、数百万、何千万という投資をしてくださいと言ってもYesの返事をもらうのはほぼ不可能。そのような中、企業の方々だけでなく豊田市からも多大な支援をいただき、とても感謝しています。

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空飛ぶクルマが目指すもの

――空飛ぶクルマに実用化の可能性はあるのでしょうか。

安全性が大変重要ですし、厳しい規制をクリアしなければならない。また、機体ができただけではだめで、最終的にはパイロットなしでも運航できるよう自動運転にしなければ、普及はできないでしょう。現在、大学で自動運転化についても研究中です。

――ヘリコプターでも空を飛ぶことができますが、何が空飛ぶクルマの強みなのでしょうか。

ヘリコプターと空飛ぶクルマは、滑走路が不要で垂直離着陸ができることが共通点ですが、ヘリコプターはプロペラが大きく、離着陸には広い場所が必要です。またプロペラによる風や騒音も大きい。しかし空飛ぶクルマは、コンパクトで離着陸にそれほど広い場所を必要としません。また、バッテリーとモーターによる電気駆動なので、エンジンがない分だけ静かになり、またエンジンで動くヘリコプターよりも構造がシンプルで、少ない部品ですむ。そのため、製造やメンテナンスにかかるコストも、ヘリコプターに対して大幅に安くできる可能性があります。

――マイルストーンには、2020年には有人のデモフライト、2025年には、誰もが空飛ぶクルマを使える未来が描かれています。空飛ぶクルマが目指すのは何なのでしょうか。

大きくは2つあります。

一つは、都市の渋滞問題に貢献することです。今後、世界人口の約7割が都市に住むと言われています。そうなれば、渋滞は大きな問題になるでしょう。2次元の道路ではキャパシティ―オーバーとなり、3次元の移動が必要になる。救急用や災害時にも空飛ぶクルマは活躍できるでしょう。

もう一つは、都市ではなく、道路もない途上国での普及です。世界には、5キロも先の井戸まで歩いて水を汲みに行くような生活をしている人がまだたくさんいます。そういう人たちが空飛ぶクルマで移動することができれば、水汲みのために1日何時間も歩かなくていいし、都市の利便性を簡単に享受できる。しかも、道路などのインフラも必要としない。

2050年には、普通の自動車と同じ利便性で、だれもが、いつでもどこへでも飛べるところまで実現できればと思っています。

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すべては小さなアクションから始まった

――最後に、これから起業しようと思っている人にアドバイスをお願いします。

起業といっても、具体的には何をしたらいいか全くイメージがわかない人は多いと思います。私も最初はそうでした。ただ、CARTIVATORの活動のすべては、身近な親しい友人に「ビジネスコンテストに応募してみようと思う」と打ち明けることから始まりました。小さなアクションですが、それすら当時の私にとっては勇気のいる一歩でした。その友人が「面白そう」と言ってくれたからコンテストに参加できたし、そこから人との出会いやチャンスが広がっていきました。あの時友人が、ポジティブな反応をしてくれなかったら、そこで心が折れてあきらめたかもしれません。

起業をするからといって、いきなり大きなことをしようとしなくていい。やりたいことがあるなら、身近な人に「これをやろうと思うんだけど」と話してみる。それだけでも世界が変わるのではないでしょうか。

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