1. 急拡大するシェアリングエコノミー、地方の課題解決の有力手段に

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急拡大するシェアリングエコノミー、地方の課題解決の有力手段に

日刊工業新聞電子版
(2018/1/1 05:00)

  • シェアリングエコノミー
  • スタートアップ

シェアリングエコノミー(共有経済)が急拡大している。国内の大手企業の参入もありサービスが広がるうえ、2020年東京五輪・パラリンピック開催を控え、訪日外国人の利用も見込まれる。少子高齢化が加速する地方にとって、課題解決の有力手段となる可能性も秘める。共有経済の波が日本経済に変革をもたらす日はそう遠くない。(大串菜月)

全国各地で利用が進むシェアサイクル全国各地で利用が進むシェアサイクル

民泊サービスに注目

矢野経済研究所のシェアリングエコノミー市場に関する調査によると、16年度の国内市場規模は15年度比26・6%増の約503億円で、21年度に約1070億円に膨らむと予測する。世界ではさらに増加する。世界的に普及する背景について、シェアリングエコノミー協会の佐別当(さべっとう)隆志事務局長は、「インターネットが広がり、本人確認や共通の友人検索機能などが進んだ参加交流型サイト(SNS)や、位置情報や決済活用などスマートフォンのデバイス自体の進化も重なり、シェアリングエコノミーの環境が整った」とし、ITの進化を挙げる。

日本の消費に詳しい日本総研調査部マクロ経済研究センターの小方尚子主任研究員は、「遊休資産を持つ豊かな日本人が増えている『経済のストック化』が進む一方で、賃金が上がらず副業・兼業の需要が増える低成長が両立した経済的な要因もある」と自身の見解も示す。

シェアリングエコノミー(共有経済)国内市場規模と予測

比較的規制の緩いシリコンバレーなどから、米ウーバー・テクノロジーズや米Airbnbが台頭。日本では、11年の東日本大震災の影響からクラウドファンディングなど、ネット上で完結するサービスが関心を呼んだ。その後、国内で注目されたのは民泊だ。17年6月の「住宅宿泊事業法」(民泊新法)の成立を受け、注目度は高まる。一方、ウーバーとタクシー業界の関係のように、共有経済は既存産業に対する脅威として認識された。

普及に向け動いたのは、シェアリングエコノミー協会。16年に設立し、ガイアックスやスペースマーケット(東京都新宿区)などシェアリングエコノミー事業者を軸に関係事業者で構成する。協会は普及活動や環境整備、会員同士のマッチング、勉強会の開催を行う。近年、ANAホールディングスとガイアックス、丸井グループとラクサス・テクノロジーズ(広島市中区)の連携など大手企業参入もあり、肯定的見方が増える。

訪日外国人に人気の民泊(イメージ)訪日外国人に人気の民泊(イメージ)

政府も一億総活躍社会を掲げる中で、シェアリングエコノミーを成長戦略の一つと位置付ける。内閣官房の情報通信技術総合戦略室に「シェアリングエコノミー促進室」を設置し、ガイドラインの作成に取り組む。政府が力を入れる背景には、地方創生への経済波及効果がある。例えば、過疎化地域におけるライドシェア(相乗り)活用は街の重要なインフラとなり、クラウドソーシングによる雇用創出も期待できる。また、都市圏もスペースなど遊休資産活用が見込める。

既存事業との連携が重要

海外に比べて日本の普及は遅い。その一番の理由が認知度の低さ。PwCコンサルティング調査結果によると、シェアリングエコノミーの認知度は全く知らない人が8割を占める。普及について、協会や政府が進めるのはシェアリングエコノミーを積極的に取り入れていく地域「シェアリングシティ」の創出。15自治体をシェアリングシティに認定した。政府は18年に100事例を作る目標を掲げ、各省庁と協力し普及活動を進める。

また、日本人の安心・安全面に対する危機感もある。協会は7月から認証制度を立ち上げ、ガイドラインに沿った安心・安全なサービスの提供を認められた事業者に認証マークを付与している。現在15サービスが認証を取得し、普及に弾みがつくきっかけとなる。

また既存事業との軋轢(あつれき)もある。この点について、今後の大企業参入が大きな節目になる。シェアリングエコノミー促進室の高田裕介企画官は「民泊についてはリフォーム需要を見込むところも多い。また資源確保にもつながる。今後は既存の業界との連携は重要」と見る。

しかし、課題は多い。税制見直しなど各事業ごとに、規制をどうするかが問われる。

規制について、高田企画官は「あまり激しい規制をやると、サービスをやる人がいなくなってしまう。黎明(れいめい)期なので、法規制をかけてサービスやイノベーションの芽を摘んではならない」とし、慎重な姿勢を示した。

【シェアリングエコノミー】

インターネットを介して不特定多数の人がモノ、お金、スキルなどを共有できる場を提供するCツーCサービス。大きくは五つに分類されており、家事代行など「スキル」、民泊など「空間」、フリーマーケットなど「モノ」、カーシェアなど「移動」、クラウドファンディングなど「お金」が挙げられる。

インタビュー/大和総研政策調査部副部長主任研究員 市川拓也氏「ビッグデータ活用も期待」

大和総研政策調査部副部長主任研究員 市川拓也氏大和総研政策調査部副部長主任研究員 市川拓也氏

―今後、企業側はどのように市場に関わっていくべきか。

「シェア事業者としてスタートアップ企業が一気に広めていくことになると思う。サービスを提供する中でデータの蓄積ができてくるため、ビッグデータ活用も期待できるのではないか。民泊の清掃管理など民泊代行や保険、本人確認や税会計システムのようにサポートなど周辺事業への参入余地はいろいろある」

―シェアリングエコノミーがもたらす経済効果は。

「経済効果は定義の問題もあり、数値的に出すことは難しい。しかし国民生活の向上が景気対策やGDP(国民総生産)成長の目的なのであれば、シェアリングエコノミーは数値でなくとも、満足という面で高められる」

―今後の課題は。

「監督官庁からよしとされている企業が高い品質を保って提供していたのが従来のやり方だったが、個人間で行うのは適切かどうかが問われる。そこは総合評価で質の担保ができる。変なことをすれば低い評価となって使われないため、良いサービスを提供しようということになる。ただ、どこまで質が担保できるかは見えない。生命に関わるようなことについては、法制上しっかり整備することが大事だ」

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