1. 深層断面/シリコンバレーから学べ! 有志活動「Dラボ」が日本企業に伝えたいこと

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深層断面/シリコンバレーから学べ! 有志活動「Dラボ」が日本企業に伝えたいこと

日刊工業新聞電子版
(2018/1/29 05:00)

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自動運転車イメージ米ウーバーが試験導入した自動運転車(ウーバー提供)

米シリコンバレーで起きるイノベーション(技術革新)のインパクトを日本に伝える有志活動「シリコンバレーD―Lab(Dラボ)」が注目を集めている。2016年に始まった現地駐在の4人の日本人による活動は、日本企業のシリコンバレー進出支援などに範囲を広げている。Dラボの活動を通じ、日本企業が新分野に打って出る際の“処方箋”の一端が見えてきた。(名古屋・杉本要)

【自動運転研究の“聖地”】

グーグル、アップル、フェイスブック、ウーバーなど世界的なIT(情報技術)企業がひしめくシリコンバレー。現在は自動運転やシェアリング(共有)、コネクテッド(つながる)といった技術を巡り、自動車産業で進むイノベーションの震源地にもなっている。

Dラボは日本貿易振興機構(ジェトロ)や在サンフランシスコ総領事館、パナソニック、デロイトトーマツベンチャーサポートに所属する日本人4人が16年に有志で始めた活動だ。シリコンバレー在住の4人は目の前で進行するイノベーションから日本や日本企業が取り残されることに危機感を覚え、シリコンバレーでの日本企業の取り組みを促進させる活動を始めた。

17年春までにシリコンバレーのキーパーソン10人弱にインタビュー。トヨタ自動車が人工知能(AI)開発のため招聘(しょうへい)したトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)のギル・プラット氏をはじめ、「自動運転研究の聖地」との呼び声も高いスタンフォード大学自動車研究センター(CARS)、ベンチャーキャピタル、スタートアップ企業の各幹部らが対象だ。

同年3月に発表した第1弾のリポートでは車産業が直面する大転換期を取り上げ、今まさに起きつつあるイノベーションのトレンドや既存事業の枠組みを超えた新規開拓の必要性などを訴え、ウェブで公開したリポートは既にダウンロード数が計17万を超えた。

【活動報告会あす第2弾 新規開拓の事例発表】

米フェイスブックの本社イメージ世界最大のSNS企業、米フェイスブックの本社(フェイスブック提供)

18年1月30日には、日本の経済産業省と連携して同省内で第2弾となる活動報告会を開く。今回はさらに10人にインタビューし、主に大企業が新規事業開発のためシリコンバレー進出する際のポイントや新規開拓の事例などを発表する予定だ。

Dラボはこれと並行し、金属加工などを手がける日本の中小企業数社のシリコンバレー進出を支援する活動を始めた。既にシリコンバレーに進出し、短納期を武器に受注を拡大している機械加工メーカーのヒルトップ(京都府宇治市)などを“手本”に、将来的には日本のモノづくり中小企業による試作品ネットワークの構築も目指している

【破壊から新構造…日本、どう食い込む】

シリコンバレーイメージシリコンバレーが産業構造の波を変えようとしている(CESのグーグルブース)

Dラボの活動から提起されるのは、自動車など既存産業の破壊によって生まれる新たな構造に、日本の大企業や中小企業はどう食い込んでいけるかという議論だ。例えばシェアリング。Dラボのリポートでは「学生は(ライドシェア大手の)ウーバー・テクノロジーズに年間100万円使っても、車の保有コストと運転にかかる手間を取られるよりはいいと言う」と大学教授が証言。また「モノづくりだけでなく、ユーザー視点でサービスと組み合わせることを追求すべきだ」といった表現が並ぶ。

こうした産業の激変は既に日本でも広く語られているが、シリコンバレーの事例からは変化が実際に起きていることと、既存産業に与える影響の大きさが伝わってくる。

1月に米ラスベガスで開かれた家電・IT見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」の会場で、あるパナソニック幹部は「技術を持っていなくても、シェアリング経済の基盤を作る人が勝つケースも起きている」と危機感をあらわにした。既存事業の基盤すら危ぶまれる状況に、企業はどう対応すべきなのか。

Dラボメンバーの一人である在サンフランシスコ総領事館の井上友貴領事は、中小企業を念頭に「日本がシリコンバレーのエコシステム(経済圏)の一翼を担えるように活動したい」と話す。例えばシリコンバレーの起業家がある製品の試作品を製造する際、現在は中国企業に依頼することが多いという。製品・サービスのアイデア提案から資金調達、開発、試作、量産といった一連の流れの中で、中小企業が活躍できる余地は大きいとみている。

一方、既にシリコンバレーに進出した大企業も新事業の開発が思うように進まないなど課題は多い。井上領事は「イノベーションは“かけ算”。技術があっても、駐在員と日本の本社の間でスピード感や認識が異なり、事業化が進まないケースもある。(人材やスピード、技術など)各要素をそろえた企業が急速に伸びていく」という。

日本企業に求められているのは、漠然とした危機感をそのままにせず、自社の変革につなげる熱意なのかもしれない。

【インタビュー/「シリコンバレーD-Lab」メンバー(在サンフランシスコ総領事館領事)井上友貴氏「技術力の過信に危うさ」】

井上友貴氏イメージ井上友貴氏

Dラボのメンバーである在サンフランシスコ総領事館の井上友貴領事に話を聞いた。

―17年春のリポート発表後にどんな反響がありましたか。

「自動車だけでなく素材や製薬などからも反応があった。変化への対応の必要性や既存事業への危機感といったレベルで共感されたと思う。車業界では日本企業の動きも加速している。CESでトヨタ自動車の豊田章男社長自らが(モビリティーサービス用の電気自動車)e―パレットコンセプトを発表したのは印象深い。ただ、中国や米国、欧州企業のスピードも驚くほど速い。シリコンバレーで日本が存在感を出すためにはもっと加速しないといけない」

―日本の自動車産業には何が必要ですか。

「将来のモビリティー社会を担うプレーヤーとして競争に参加するには三つの要素が必要。ハードを作る力、自動運転機能のAIなどソフトの力、顧客との接点を持つためのサービスを展開する力だ。他社と連合を組んででも三つの要素を提供できないと参加資格は得られない。だからこそ他国のプレーヤーは企業間の提携が激しさを増している」

「日本はサービス開発が不得手とされる。しかしサービスを担わなければ顧客接点や付加価値のある部分を外国企業に取られ、モノやソフトを供給するだけになってしまう。従来型のモノづくりに偏らず、3点セットを育てることが必要だ」

―改めて日本企業へのメッセージを。

「個人的な意見ではあるが、日本が以前のように技術的に優れているという考えは捨てるべきだ。少なくともシリコンバレーで日本の技術が最先端とは思われていない」

「今の日本は明治初期に日本が何を行ったかを思い起こすべきではないか。開国し、世界は予想以上に進んでいたことを知った時、独立を守るため外国に人を送り、学び、徹底的に採り入れた。成功体験のある企業が変わるのは難しいが、それでもいくつかの企業は大転換を果たしている。他の企業から謙虚に学ぶ姿勢を取り返せば、日本企業はまだ巻き返せる」

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